既往歴があると労災はどこで否定されるのでしょうか?実務でよく問題になるポイント

既往歴や休職歴がある場合の労災申請について、過去の経過を整理しながら考えるイメージ

「以前からうつ病がありました」

「過去に適応障害で休職したことがあります」

「発達障害や不安障害の診断があります」

このような既往歴がある場合、メンタル不調で労災申請を考えていても、「もともとの病気だから労災にはならないのではないか」と不安になる方は少なくありません。

たしかに、既往歴があるケースでは、労基署の調査で慎重に見られるポイントがあります。

しかし、既往歴があるからといって、それだけで労災が否定されるわけではありません。

この記事では、既往歴がある場合に、労災でどこが問題になりやすいのか、実務上の視点から整理します。

既往歴があるだけで労災が否定されるわけではありません

まず大切なのは、「過去に病気があったこと」と「今回の不調が仕事と関係しているか」は別の問題ということです。

たとえば、過去にうつ病や適応障害の診断があったとしても、その後に症状が落ち着いて働けていた方が、職場での強い出来事をきっかけに再び悪化した場合には、労災として検討できる余地があります。

労基署が見るのは、単に病名や既往歴の有無だけではありません。

  • 発症前に仕事上の強い出来事があったか
  • その出来事の後に症状が悪化しているか
  • それまでの就労状況はどうだったか
  • もともとの症状と今回の症状に違いがあるか
  • 医療記録や勤務状況から経過を確認できるか

このような点を総合的に見て判断されます。

精神障害の労災認定では、既往歴や本人側の事情も確認されますが、 それだけで直ちに労災が否定されるわけではありません。

実際には、業務による心理的負荷と症状との関係を含めて総合的に判断されます。

既往歴がある場合に否定されやすいポイント

既往歴があるケースで労災が問題になるとき、主に次のような点が争点になりやすいです。

1. 仕事ではなく、もともとの病気の自然経過ではないか

もっとも大きなポイントは、今回の悪化が仕事によるものなのか、それとも病気の自然な経過なのかです。

たとえば、職場で特に大きな出来事が確認できず、以前から症状の波が続いていた場合には、「業務による悪化ではなく、もともとの病気の経過ではないか」と見られることがあります。

一方で、ある出来事を境に明らかに症状が悪化している場合は、整理の余地があります。

  • 叱責やパワハラの後から眠れなくなった
  • 異動や業務増加の後から通院が必要になった
  • 休まず働けていたのに、職場の出来事の後に休職に至った
  • 以前とは違う強い不安、抑うつ、出勤困難が出た

このように、「どこから明らかに悪化したのか」を説明できるかが重要になります。

2. 発症前6か月の出来事が弱いと見られる場合

メンタル不調の労災では、発症前おおむね6か月の出来事が重要になります。

その期間に、業務上の強い心理的負荷が確認できない場合、既往歴がある方ほど「業務による発症・悪化とは言いにくい」と判断されやすくなります。

そのため、次のような出来事があった場合は、できるだけ具体的に整理する必要があります。

  • 上司からの強い叱責や人格否定
  • 退職を迫るような発言
  • 長時間労働や休日出勤の継続
  • 急な配置転換や業務量の増加
  • 職場内での孤立、無視、排除
  • 重大なクレームや事故対応

「つらかった」だけではなく、いつ、誰から、何をされたのかを整理することが大切です。

3. 以前から症状が続いていたと見られる場合

既往歴がある場合、カルテや通院歴から、以前から症状が続いていたと見られることがあります。

もちろん、通院していたこと自体が不利というわけではありません。

ただし、仕事上の出来事の前から、すでに休職が近いほど悪化していたように見える場合は、業務との関係が弱く見られる可能性があります。

一方で、通院しながらも働けていた、症状が安定していた、通常勤務ができていたという事情があれば、今回の悪化を説明しやすくなります。

4. 私生活上の問題が大きいと見られる場合

家庭内の問題、借金、離婚、介護、病気、事故など、仕事以外の事情が大きい場合も確認されます。

この場合も、私生活上の問題があるだけで直ちに労災が否定されるわけではありません。

重要なのは、今回の症状悪化にどの出来事がどの程度影響しているのかです。

仕事上の出来事が明確で、その後に症状が悪化しているのであれば、私生活上の事情があっても、業務による心理的負荷を整理する意味はあります。

「悪化」と「自然経過」の分かれ目

既往歴があるケースでは、悪化なのか、自然経過なのかが大きな分かれ目になります。

分かりやすく言うと、次のような違いです。

自然経過と見られやすい例

  • 仕事上の大きな出来事がはっきりしない
  • 以前から症状が悪化傾向だった
  • 通院記録上、職場の出来事より前から休職寸前だった
  • 私生活上の問題が主な原因として記録されている

業務による悪化として整理しやすい例

  • それまでは働けていた
  • 職場で明確な出来事があった
  • その後から不眠、不安、抑うつ、出勤困難が強くなった
  • 出来事の後に受診、休職、退職につながっている
  • LINE、メール、メモ、勤怠資料などで経過を確認できる

今のご自身の状態が「自然経過と見られやすいのか」 「業務による悪化として整理できる余地があるのか」は、 発症前後の流れを一度整理してみると見えやすくなります。

つまり、既往歴がある場合ほど、「今回、何が変わったのか」を具体的に示すことが重要になります。

会社側がよく言うこと

既往歴があるケースでは、会社側から次のように言われることがあります。

  • もともとうつ病だったのではないか
  • 会社が原因ではない
  • 以前から体調が悪かった
  • 本人の性格や特性の問題ではないか
  • 家庭の問題が原因ではないか

このような主張が出ること自体は珍しくありません。

ただし、会社がそう言ったからといって、そのまま労災が否定されるわけではありません。

本人側としては、感情的に反論するよりも、仕事上の出来事、症状の変化、受診・休職までの流れを落ち着いて整理することが大切です。

既往歴といっても内容によって争点は異なります。 適応障害の再発や過去の休職歴については、以下の記事でも詳しく解説しています。

既往歴がある人が整理しておきたい資料

既往歴がある場合は、次の資料を確認しておくと、状況整理に役立ちます。

  • 発症前6か月の出来事をまとめた時系列
  • 勤怠資料、残業時間、シフト表
  • 上司や会社とのLINE、メール、チャット
  • 叱責や面談のメモ、録音、議事録
  • 診断書、受診日、薬の変更状況
  • 過去の休職歴や復職後の勤務状況
  • 症状が安定していた時期の就労状況

特に大切なのは、「もともと病気があった」ではなく、「今回どの出来事で悪化したのか」を説明できる資料です。

自分のケースがどちらに近いか分からない場合

既往歴がある場合は、 「もともとの病気の経過なのか」 「仕事上の出来事による悪化なのか」 で迷うことが少なくありません。

まとまっていなくても大丈夫ですので、 いつ頃から不調か、仕事でどのような出来事があったか をLINEで送っていただければ、 整理の方向性を一緒に確認できます。

LINEで状況だけ送る

既往歴がある場合にやってはいけない整理

一方で、次のような整理は注意が必要です。

  • 過去の病気を完全になかったことにする
  • 都合の悪い通院歴を隠そうとする
  • 会社への怒りだけを中心に書く
  • 出来事の時期があいまいなまま申請する
  • 症状の悪化時期と出来事の関係を整理しない

既往歴がある場合、過去の病気を隠すよりも、過去の状態と今回の悪化を分けて説明する方が大切です。

「以前も病気はあったが、この時期は働けていた」

「今回の出来事の後に、明らかに症状が悪化した」

「その結果、受診・休職・退職につながった」

この流れを整理することが、実務上は重要になります。

まとめ

既往歴があるからといって、それだけで労災が否定されるわけではありません。

ただし、既往歴がないケースに比べると、次の点が慎重に見られます。

  • 今回の悪化が仕事によるものか
  • もともとの病気の自然経過ではないか
  • 発症前6か月に強い出来事があったか
  • 出来事の後に症状が悪化しているか
  • 医療記録や勤務状況と整合しているか

大切なのは、既往歴の有無だけではなく、今回の仕事上の出来事によって何が変わったのかを整理することです。

「もともと病気があるから無理」と決めつける前に、一度、発症前後の流れを確認してみることをおすすめします。

ご相談について

こもれび社労士事務所では、メンタル不調の労災申請について、状況整理のご相談を受けています。

過去にうつ病、適応障害、発達障害、不安障害、休職歴などがある場合でも、今回の悪化の流れを一緒に整理できることがあります。

「既往歴があるから無理かもしれない」と感じている段階でも大丈夫です。

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「いつ頃から不調か」 「仕事でどのような出来事があったか」 など、書ける範囲で大丈夫です。

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まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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