会社と本人の説明が違うとき、労基署はどちらを信じる?精神障害の労災を解説

会社は「そのような事実はなかった」と説明しています。
本人は「パワハラを受けた」と説明しています。
精神障害の労災申請では、会社と本人の説明が大きく食い違うことがあります。
本人は、上司から強い叱責や人格を傷つける発言を受けたと説明している。一方、会社は「通常の業務指導だった」「そのような発言はしていない」と回答している。
このような場合、「労働基準監督署は、会社と本人のどちらを信じるのだろう」と不安に感じる方は少なくありません。
結論からいうと、労働基準監督署は、会社の説明だけを理由に支給・不支給を決めるわけではありません。
本人と会社の説明だけでなく、メールやチャット、診療記録、勤怠記録、関係者の話などを確認し、どちらの説明が周囲の資料や経過と合っているかを検討します。
ただし、説明が食い違ったまま十分な裏付けが確認できない場合には、「事実を特定できない」と整理されることがあります。
この記事では、会社と本人の説明が異なるとき、労働基準監督署がどのような資料を確認し、どのように判断するのかを分かりやすく解説します。
会社と本人の説明が違うのは珍しくありません
パワハラや強い叱責などの出来事は、会議室や上司と本人だけの面談で起きることがあります。
そのため、後から調査が始まったときに、次のように双方の説明が食い違うことは珍しくありません。
- 本人は「人格を否定する発言を受けた」と説明している
- 会社は「仕事上必要な注意をしただけ」と説明している
- 本人は「退職を迫られた」と説明している
- 会社は「今後の働き方について話し合っただけ」と説明している
- 本人は「仕事を外された」と説明している
- 会社は「業務上必要な役割変更だった」と説明している
同じ出来事であっても、立場によって受け止め方が異なることはあります。
一方で、発言の有無や面談の内容など、単なる受け止め方の違いでは説明できない対立が生じることもあります。
そのため、労働基準監督署は、どちらか一方の話をそのまま採用するのではなく、ほかの資料や関係者の説明も確認しながら事実関係を整理します。
会社が「労災ではない」と言っても、それだけでは決まりません
会社から、
- パワハラの事実はない
- 業務上必要な通常の指導だった
- 仕事が原因で体調を崩したとは考えていない
- 会社としては労災とは認めない
と言われることがあります。
しかし、労災保険の支給・不支給を最終的に判断するのは会社ではありません。
会社が労災を否定していても、労働者本人は労災請求をすることができます。
また、会社の説明は重要な調査資料の一つではありますが、会社の回答だけで自動的に不支給になるわけではありません。
労働基準監督署は、本人の申立て、会社の回答、関係者への聞き取り、勤怠記録、メール、診療記録などを総合して判断します。
会社が認めないことと、労災が認められないことは同じではありません。
労働基準監督署は、どちらの話を信じるのか
実際の調査では、「本人と会社のどちらが信用できるか」という単純な二者択一だけで判断されるわけではありません。
主に、次のような点が確認されます。
説明が一貫しているか
本人が、最初の相談、病院での説明、会社への申出、労災申請の内容で、おおむね一貫した説明をしているかが確認されます。
細かな日付や言葉を完全に覚えていないことだけで、直ちに信用されなくなるわけではありません。
精神的につらい状態では、記憶が曖昧になったり、説明の順番が前後したりすることもあります。
ただし、出来事の中心部分が何度も大きく変わっている場合には、事実関係の確認が難しくなることがあります。
説明と記録が合っているか
本人や会社の説明が、当時作成された資料と合っているかも重要です。
例えば、次のような資料が確認されることがあります。
- メールや社内チャット
- 勤務記録やパソコンの使用記録
- 面談記録や人事資料
- 業務日報やスケジュール
- 病院の診療記録
- 家族や同僚へ送ったメッセージ
会社が「通常の指導だった」と説明していても、同じ時期に業務を突然外されていたり、繰り返し厳しい連絡が送られていたりすれば、会社の説明が実際の経過と合っているかが問題になります。
出来事の直後にどのような変化があったか
問題となる出来事の直後に、本人の体調や勤務状況がどのように変化したかも判断材料になります。
例えば、出来事の直後から、
- 眠れなくなった
- 食事が取れなくなった
- 出勤できなくなった
- 病院を受診した
- 家族や同僚へ被害を訴えていた
という経過があれば、本人の説明を支える事情になる可能性があります。
ただし、体調を崩したという事実だけで、本人の主張するすべての発言内容まで認められるわけではありません。
体調の変化と職場の出来事を、時系列で具体的に結び付けて整理することが大切です。
会社の説明に不自然な点がないか
会社の説明についても、その内容が一貫しているか、客観的な資料と合っているかが確認されます。
例えば、会社が「本人の業務には変更がなかった」と説明しているのに、メールや社内資料から大きな役割変更が確認できる場合には、説明の信用性が問題になります。
また、調査の途中で会社の説明が変わっている場合や、重要な出来事について具体的な説明がない場合も、慎重な確認が必要になります。
「事実を特定できない」とはどういう意味か
本人と会社の説明が食い違い、録音や第三者の証言などがない場合、審査資料に、
「双方の説明が異なり、その事実を特定することは困難である」
といった内容が記載されることがあります。
この表現は、必ずしも、
「本人の話は嘘である」
と判断されたことを意味しません。
会社の説明が完全に正しいと認定したことを意味するとも限りません。
多くの場合は、
「その事実があったと認めるための資料が十分ではなかった」
という意味です。
ただし、「特定できない」とされた発言や出来事は、心理的負荷の評価に十分反映されないことがあります。
例えば、強い叱責や退職に関する働きかけなどを主張していても、その具体的な内容が認定されなければ、通常の業務指導や人事上の説明として整理される可能性があります。
その結果、本人が実際に受けたと感じている出来事よりも、心理的負荷が低く評価されることがあります。
録音がなければ、本人の話は認められないのか
録音は、発言内容や話し方を確認できる重要な資料です。
しかし、録音がないからといって、直ちに労災申請ができないわけでも、本人の説明がすべて認められないわけでもありません。
録音以外にも、次のような資料が出来事を裏付けることがあります。
- 出来事の当日や直後に送ったLINEやメール
- 病院で医師に話した内容が記載された診療記録
- 家族や友人へ相談したメッセージ
- 日時や発言内容を記録したメモや日記
- 同席者や同僚の証言
- 会社から送られた面談記録や通知書
- 業務内容や配置の変化が分かる資料
- 勤怠や休職に至るまでの記録
一つの資料だけで発言内容を完全に証明できなくても、複数の資料を組み合わせることで、出来事の全体像が見えてくることがあります。
例えば、面談の録音がなくても、例えば、面談直後に家族へ具体的な内容を送信し、その後間もなく医療機関を受診していた場合には、ほかの資料とあわせて一連の経過として整理できることがあります。
大切なのは、録音がないことだけに注目するのではなく、当時の状況を示す資料がほかに残っていないかを確認することです。
後から作ったメモにも意味はあるのか
出来事の直後ではなく、労災申請を考え始めてから作成したメモであっても、状況整理には役立ちます。
ただし、出来事から時間が経過した後に作成されたメモは、当時作成されたメールや診療記録に比べると、証拠としての評価が慎重になることがあります。
そのため、メモを作る場合には、
- いつの出来事か
- どこで起きたか
- 誰がいたか
- どのような発言や対応があったか
- その直後に何をしたか
- 体調がどう変化したか
を、分かる範囲で具体的に整理することが大切です。
記憶が曖昧な部分を無理に断定せず、「時期はおおむねこの頃」「正確な表現は覚えていないが、このような趣旨だった」など、記憶の程度に応じて書く方が自然です。
本人の説明を長く書けば認められるとは限りません
会社の説明と食い違っている場合、本人としては、当時の苦しさや会社への不信感をできるだけ詳しく伝えたいと考えることがあります。
しかし、本人の主張を何度も繰り返すだけでは、事実関係の判断が変わらないこともあります。
重要なのは、単に文章量を増やすことではなく、
- 本人と会社の説明は、具体的にどこが違うのか
- 本人の説明を支える資料は何か
- 会社の説明と矛盾する記録はないか
- 出来事の直後にどのような変化があったか
- 複数の出来事がどのようにつながっているか
を整理して示すことです。
「私はつらかった」という説明と、「職場で何が起きたかを裏付ける説明」は、分けて整理する必要があります。
不支給になっても「嘘だと判断された」とは限りません
労災が不支給になると、
「自分の話を信じてもらえなかった」
「嘘をついていると思われた」
と感じ、強く傷つく方もいます。
しかし、不支給の理由が、本人の供述が虚偽だと判断されたことにあるとは限りません。
実際には、
- 発言の具体的な内容を確認できなかった
- 会社と本人の説明のどちらが正しいか特定できなかった
- 出来事は認めたものの、強い心理的負荷とは評価されなかった
- 複数の出来事が別々に評価された
という理由で、不支給になっていることがあります。
そのため、不支給決定に納得できない場合には、感情的に会社の説明を否定するだけではなく、何が認められ、何が認められず、どの資料が不足していたのかを確認することが重要です。
審査請求では、説明の食い違いを整理し直します
不支給決定に対して審査請求を行う場合には、本人の主張を最初からすべて書き直すのではなく、原処分でどのような判断がされたかを確認することが大切です。
特に確認したいのは、次の点です。
- 本人の説明のうち、どの部分が認められたか
- どの部分が「特定できない」とされたか
- 会社の説明は、どの資料によって裏付けられたとされたか
- 本人の提出資料はどのように評価されたか
- 追加で提出できる客観的な資料はないか
- 周辺の資料から、出来事があったことを裏付けられないか
審査請求では、単に「会社が嘘をついている」と主張するのではなく、会社の説明のどこが不自然で、どの客観的資料と矛盾するのかを具体的に示す必要があります。
また、当初の調査で十分に確認されていなかった資料や関係者がいる場合には、その点を明確にすることも重要です。
大切なのは「どちらを信じるか」より、資料と経過が合っているかです
会社と本人の説明が違う場合でも、労働基準監督署が会社の説明だけを採用して判断するわけではありません。
本人と会社の説明に加えて、メール、チャット、診療記録、勤怠記録、関係者の話などを確認し、説明と客観的な経過が合っているかを検討します。
ただし、説明が食い違い、十分な裏付けが確認できない場合には、「事実を特定できない」と整理されることがあります。
これは、必ずしも本人が嘘をついていると判断されたことを意味しません。
しかし、特定できなかった出来事は心理的負荷の評価に反映されにくくなり、結果として不支給につながることがあります。
録音がない場合でも、メール、医療記録、メモ、処遇の変化など、周辺の資料を組み合わせることで、本人の説明を補える場合があります。
大切なのは、会社と本人のどちらが正しいかを感情的に争うことではなく、どの説明が当時の資料や経過と整合しているかを整理することです。
会社の説明と食い違い、不安を感じている方へ
会社と本人の説明が食い違うケースでは、 「何を証拠として整理すればよいのか分からない」 「会社の説明にどう反論すればよいのか分からない」 「不支給の理由がよく分からない」 というご相談を多くいただきます。
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不支給決定を受けた場合には、審査資料を確認し、
- 何が認められているのか
- 何が「特定できない」と判断されたのか
- 会社の説明がどのように評価されているのか
- 追加で整理・提出できる資料がないか
- 審査請求で主張すべきポイントはどこか
を一緒に整理し、今後の進め方をご案内しています。
会社が事実を否定しているからといって、それだけで労災申請や審査請求を諦める必要はありません。
まずは現在お持ちの資料と、これまでの経過を整理するところから始めてみませんか。
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ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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