カスハラでうつ病・適応障害になったら労災になる?認定基準と証拠を社労士が解説

カスハラによる暴言で精神的につらくなり、うつ病・適応障害の労災申請を検討するイメージ

「お客様から何度も怒鳴られた」
「無理な要求や人格を否定するような言葉が続き、出勤できなくなった」
「カスハラが原因でうつ病や適応障害と診断された。労災になるのだろうか」

顧客、取引先、施設利用者などからの著しい迷惑行為、いわゆる カスタマーハラスメント(カスハラ) によって精神的に追い詰められ、精神科や心療内科を受診する方もいます。

結論からいうと、 カスハラによってうつ病や適応障害などの精神障害を発病した場合、事情によっては労災の対象になる可能性があります。

ただし、

「客に怒鳴られた」
「クレームを受けた」

自動的に労災認定

となるわけではありません。

実際にどのような言動を受けたのか、その程度や継続性、会社へ相談した後の対応、精神障害を発病するまでの経過などを具体的に確認していく必要があります。

先に結論

精神障害の労災認定基準では、 「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」 という出来事が、心理的負荷を評価する具体的出来事として設けられています。

大切なのは「カスハラだった」という名称だけではなく、 何をされたのか、どの程度だったのか、何回・どのくらい続いたのか、会社がどのように対応したのか を具体的に整理することです。

カスハラによるうつ病・適応障害も労災の対象になり得る

仕事が原因で精神障害を発病した場合、労災では、一般に

  • 対象となる精神障害を発病しているか
  • 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められるか
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因などをどう評価するか

といった点を確認していきます。

その「業務による心理的負荷」の一つとして、 顧客や取引先、施設利用者等から受けた著しい迷惑行為 も評価対象になります。

つまり、職場の上司や同僚から受けた行為だけが精神障害の労災の対象になるわけではありません。

例えば、

  • 販売店の店員がお客様から繰り返し暴言を受けた
  • コールセンターで著しく威圧的な電話対応を繰り返し強いられた
  • 介護・医療現場で利用者や家族から脅迫的な言動を受けた
  • 取引先から著しく不当な要求を繰り返された

といった場面でも、具体的な事実関係によっては精神障害の労災を検討することになります。

なお、適応障害であっても、労災の対象となる精神障害に該当し得ます。ただし、病名だけで決まるわけではなく、発病時期や業務上の心理的負荷などを踏まえて個別に判断されます。

「カスハラ」という言葉だけで判断するわけではありません。

労災では、誰から、いつ、どこで、何を言われ・され、それがどの程度続いたのかという具体的な出来事を確認します。

カスハラは精神障害の労災認定基準でどう扱われる?

厚生労働省は2023年9月に、 「心理的負荷による精神障害の認定基準」 を改正しました。

この改正で、「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事として、

「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」

という項目が新設されています。

厚生労働省の運用上の留意点では、この項目について、 顧客や取引先、施設利用者等から、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等の著しい迷惑行為を受けた場合の心理的負荷を評価するもの とされています。

2023年の改正で変わったポイント

カスハラに当たるような顧客等からの著しい迷惑行為が、精神障害の心理的負荷を評価する独立した具体的出来事として明確に位置付けられました。

なお、上司や同僚など社内の人物から受けた言動については、事案に応じてパワーハラスメントや対人関係に関する別の具体的出来事として評価されることがあります。

最新統計では支給決定127件

厚生労働省が2026年7月に公表した 令和7年度「過労死等の労災補償状況」 では、精神障害の支給決定事案について、出来事別の件数が公表されています。

出来事 支給決定件数
上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた 222件
顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた 127件
セクシュアルハラスメントを受けた 127件

出典:厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」表2-8をもとに作成。

「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という出来事について、 127件の支給決定 があったことになります。

ただし、この数字を

「カスハラなら127件も認定されているから、自分も認定される」

と読むことはできません。

127件の中でも、受けた行為の内容、程度、継続期間、会社側の対応、発病に至った経過などはそれぞれ異なります。

この統計は、 顧客等からの著しい迷惑行為が、実際に精神障害の労災支給決定事案として一定数存在している ことを示す資料として見るのが適切です。

どのようなカスハラが労災で問題になる?

厚生労働省の運用上の留意点では、具体的に

  • 暴行
  • 脅迫
  • ひどい暴言
  • 著しく不当な要求

などの著しい迷惑行為が挙げられています。

暴行・身体的な威圧

実際の暴行だけでなく、暴行に関連する一連の言動や、その場の具体的な状況を含めて確認されることがあります。

脅迫

危害を加えることを示唆する、勤務先や本人に不利益を与えると繰り返し告げるなど、強い恐怖を与える言動が問題となることがあります。

ひどい暴言

単に声が大きかったというだけではなく、

  • 人格を否定する
  • 侮辱する
  • 差別的な言葉を繰り返す
  • 著しく威圧的な言葉を長時間浴びせる

といった具体的な内容や程度が重要になります。

著しく不当な要求

通常の接客・取引対応の範囲を明らかに超える要求を執拗に繰り返された場合なども、具体的な事情によって評価対象になります。

注意

「この行為があれば必ず心理的負荷が『強』になる」という機械的な基準ではありません。 実際には、言動の内容や程度、経緯、頻度、継続性などを含めて個別に評価されます。

「クレームを受けた」だけで労災になるわけではない

接客、販売、コールセンター、医療、介護などの仕事では、顧客や利用者から苦情や要望を受けることがあります。

そのため、 通常の苦情や正当な要望と、社会通念上許容される範囲を超えた著しい迷惑行為とは分けて考える必要があります。

例えば、

「クレームを受けた」
「お客様に注意された」

という名称だけでは、心理的負荷の強さは判断できません。

逆に、

  • 接客業なのだから怒鳴られて当然
  • クレーム対応も仕事なのだから我慢すべき
  • 顧客からの言葉だからパワハラではないので労災にもならない

と考えるのも適切ではありません。

労災では、 実際に何をされたのか を具体的に確認します。

心理的負荷の評価で確認したいこと

自分が受けたカスハラを整理するときは、次のような事情を確認してみてください。

確認する点 整理する内容の例
言動の内容 実際に何を言われた・されたのか
程度 暴行、脅迫、人格否定、著しく威圧的な言動などがあったか
頻度・継続性 1回だけか、繰り返されたか、長時間・長期間続いたか
経緯・状況 なぜその対応をすることになったのか、逃れたり交代したりできたか
会社への相談 いつ、誰に、どのように相談したか
会社の対応 担当交代、警察相談、顧客対応、配置変更などが行われたか
発病までの経過 不眠や不安がいつ始まり、受診・欠勤・休職へどうつながったか

重要なのは、 「カスハラ」という一言を、具体的な事実へ分解すること です。

会社が守ってくれなかった場合は?

カスハラ被害を会社へ相談したにもかかわらず、

  • 同じ顧客への対応を繰り返し任された
  • 担当を交代してもらえなかった
  • 相談しても「客だから仕方ない」と言われた
  • 上司が状況を把握していたのに対応がなかった

というケースもあります。

会社が対応しなかったという事情だけで、自動的に労災になるわけではありません。

ただし、会社が被害を認識した後も状況が継続・深刻化した経緯などは、事実関係を整理するうえで重要になることがあります。

2026年10月1日からカスハラ対策が義務化されます

改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメント防止のために必要な措置を講じることが義務付けられます。

ただし、会社側のカスハラ防止措置義務と、個別の精神障害が労災として認められるかどうかは、それぞれ確認すべき制度・判断事項が異なります。

カスハラ被害後に残しておきたい証拠

労災申請を考える場合、 「つらかった」という説明だけではなく、何が起きたのかを確認できる資料 が重要になります。

ここでいう「証拠」は、録音や映像だけを意味するものではありません。

出来事、会社への相談、症状、受診、欠勤・休職の経過を確認できる資料を、複数組み合わせて整理することが重要です。

1.録音・メール・チャットなど

  • 電話や会話の録音
  • メール
  • チャット
  • SMS
  • 問い合わせフォームの内容

など、実際の言動が分かるものがあれば保存しておきます。

2.顧客対応記録・社内記録

  • 苦情対応記録
  • 顧客対応票
  • 事故報告書
  • 業務日報
  • 申し送り

なども、当時の状況を確認する資料になる可能性があります。

3.会社へ相談した記録

例えば、

  • 上司へ送ったメールやチャット
  • 相談窓口への申告
  • 面談記録
  • 会社からの回答

などです。

「いつ相談したのか」「会社は何と回答したのか」が分かるようにしておくと整理しやすくなります。

4.同僚や家族へ送ったメッセージ

出来事の直後に、

「今日また○○さんから1時間怒鳴られた」
「怖くて明日出勤できない」

などと家族や同僚へ送っていたLINE・メール等が残っている場合もあります。

5.受診・欠勤・休職の記録

  • 初診日
  • 診断書
  • 処方内容
  • 勤怠記録
  • 欠勤・早退の記録
  • 休職通知

なども整理します。

6.時系列メモ

証拠がすべて揃っていなくても、まずは、

カスハラ被害を整理する時系列メモの例
  • 年月日・時間
  • 場所・対応した相手
  • 言われたこと・されたこと
  • その場にいた人・録音や記録の有無
  • 上司・会社へ相談した内容と回答
  • その後の症状、受診、欠勤・休職の経過

を日付順に残しておきましょう。

録音がない=労災申請できない、ではありません。

メール、社内記録、相談記録、診療録、勤怠、関係者の説明など、複数の資料を組み合わせて事実関係を確認していくことがあります。

※会社の資料を保存・持ち出す場合には、個人情報や営業秘密、社内規程など別の問題が生じることがあります。資料の取得方法にも注意してください。

休職・退職後でも労災申請できる?

カスハラ被害を受けた方の中には、

「もう会社を辞めてしまったから労災は無理なのでは?」

と考える方もいます。

しかし、 退職したという理由だけで、労災請求ができなくなるわけではありません。

退職前の仕事上の出来事によって精神障害を発病したと考えられる場合には、退職後でも労災請求を検討する余地があります。

ただし、労災保険給付には請求権の時効があり、請求する給付によって確認すべき点も異なります。

また、退職から時間が経つほど、

  • 社内記録が残っていない
  • 録画等が消去されている
  • 関係者の記憶が薄れている

といったこともあります。

申請するかまだ決めていない段階でも、 手元にある資料だけは早めに整理しておく ことをおすすめします。

よくある質問

カスハラで適応障害になった場合も労災の対象になりますか?

適応障害であっても、対象となる精神障害を発病し、業務による強い心理的負荷などの認定要件を満たす場合には、労災の対象となる可能性があります。

病名だけでなく、発病時期や仕事上の出来事などを含めて判断されます。

お客様から一度怒鳴られただけでも労災になりますか?

「一度だから認められない」「怒鳴られれば必ず認められる」と一律に判断することはできません。

言動の具体的内容、程度、経緯、恐怖や危険性、継続性などを踏まえて個別に評価されます。

録音がなくても労災申請できますか?

録音がなければ労災申請ができないということではありません。

メール、チャット、相談記録、顧客対応記録、診療録、勤怠、関係者の説明など、他の資料を含めて事実関係を確認していくことになります。

会社が「カスハラではなかった」と否定したら申請できませんか?

会社が否定したことだけで、直ちに労災が不支給になるわけではありません。

本人・会社双方の説明のほか、提出資料や関係者の説明などを踏まえ、労働基準監督署が事実関係を確認します。

会社が「そんな事実はない」と否定した場合の労災についてはこちらでも詳しく解説しています。

残業が少なくてもカスハラによる精神障害は労災になりますか?

精神障害の労災は、残業時間だけで判断されるものではありません。

顧客等からの著しい迷惑行為など、長時間労働以外の具体的出来事によって強い心理的負荷が認められる場合もあります。

残業時間が少ない場合の精神障害の労災についてはこちらで解説しています。

会社がカスハラへの対応をしてくれなかったら、それだけで労災になりますか?

会社の対応が不十分だったという事情だけで、直ちに労災と判断されるわけではありません。

ただし、被害がどのように継続・深刻化したのかを確認するうえで、会社への相談内容や会社の対応経過は重要な資料になることがあります。

まとめ|「カスハラだった」ではなく、具体的な事実を整理する

カスハラによってうつ病や適応障害などの精神障害を発病した場合、 事情によっては労災として認められる可能性があります。

2023年9月の認定基準改正では、 「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」 という出来事が、心理的負荷を評価する具体的出来事として追加されました。

また、厚生労働省の令和7年度統計では、この出来事に関する精神障害の支給決定は 127件 となっています。

ただし、

「カスハラを受けたから労災」
ではありません。

大切なのは、

  • 実際に何を言われ・されたのか
  • どの程度の行為だったのか
  • 何回・どのくらい続いたのか
  • 会社へ相談した後どうなったのか
  • いつ症状が出て、いつ受診・休職したのか
  • それらを確認できる資料があるか

を一つずつ整理することです。

労災では「カスハラ」というラベルより、実際に起きた事実が重要です。

「客から怒鳴られた」で終わらせず、発言内容、回数、期間、会社への相談、受診までの経過などを時系列で整理してみましょう。

カスハラによる精神障害の労災を検討している方へ

こもれび社労士事務所では、パワーハラスメントやカスタマーハラスメント、長時間労働、仕事内容・仕事量の変化などによる精神障害の労災について、事情整理や申請書類の作成をサポートしています。

「これはカスハラとして労災の対象になるのか分からない」
「録音がない」
「会社に相談したけれど対応してもらえなかった」
「すでに休職・退職している」

という段階でも構いません。

まずは、実際にどのような出来事があり、どのような資料が残っているのかを整理するところから確認していきます。

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参考資料

※本記事は、カスタマーハラスメントと精神障害の労災に関する一般的な情報を整理したものです。同じような言動があっても、心理的負荷の評価や労災保険給付の可否は、行為の内容・程度・経緯・継続性、発病時期、医学的資料、業務以外の事情等を踏まえて個別に判断されます。また、2026年10月1日から施行されるカスタマーハラスメント防止措置と、個別事案における労災認定は別の制度上の判断です。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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そんな段階でも大丈夫です。

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