【原処分理由書から学ぶ②】パワハラはなぜ労災で認められにくいのか?原処分理由書から見えた評価のポイント

この記事では、「原処分理由書から学ぶ」シリーズの第2弾として、実際の原処分理由書や審査請求実務から見えてきた、精神障害の労災認定における「パワハラ評価」のポイントを、個人情報等に配慮したうえで社労士の視点から解説します。
「上司からひどいことを言われた」「パワハラで体調を崩した」と感じていても、それだけで直ちに労災認定されるとは限りません。
精神障害の労災認定では、単にパワハラがあったかどうかではなく、その言動が認定基準上どのように評価されるかが重要になります。
実際の原処分理由書を読むと、労基署や原処分庁は、上司の発言について「業務指導の範囲内だったのか」「継続的だったのか」「客観的な裏付けがあるのか」といった点を細かく見ていることが分かります。
この記事では、パワハラがなぜ労災で認められにくいことがあるのか、そして申請時にどのような点を整理しておくべきかを解説します。
パワハラ=すべて労災、ではない
まず大切なのは、「パワハラを受けた」と本人が感じていることと、労災認定上の心理的負荷が「強」と評価されることは、必ずしも同じではないという点です。
もちろん、人格を否定する発言、退職を迫る発言、執拗な叱責、隔離や排除、過度な圧力などがあれば、精神的な負担は非常に大きくなります。
しかし、労災認定では、その出来事について次のような観点から評価されます。
- 業務上必要な指導だったのか
- 発言の内容が人格否定に及んでいたのか
- 一度だけの出来事か、継続的に行われていたのか
- 第三者や客観資料による裏付けがあるのか
- 出来事の後に症状が出現し、受診や休職につながっているのか
そのため、労災申請では「パワハラでした」と書くだけでは足りません。
どのような言動が、いつ、誰から、どのような状況で行われ、その後どのように体調が悪化したのかを、認定基準に沿って整理する必要があります。
① 「業務指導」と評価されると、心理的負荷が低く見られることがある
原処分理由書でよく見られるのが、上司の発言や対応について「業務上必要な指導だった」「業務指導の範囲を超えるものとはいえない」と評価されるケースです。
このように評価されると、本人にとって非常につらい出来事であっても、心理的負荷の評価が相対的に低く記載されることがあります。
たとえば、仕事のミスに対する注意、勤務態度への指摘、業務改善を求める発言などは、それ自体が直ちに強い心理的負荷と評価されるわけではありません。
しかし、次のような事情がある場合には、単なる業務指導とは異なる評価が必要になることがあります。
- 「辞めた方がいい」など退職を示唆する発言があった
- 「向いていない」「使えない」など人格や能力を否定する発言があった
- 他の職員の前で繰り返し叱責された
- 長時間にわたり一方的に責められた
- 指導の目的を超えて、精神的に追い詰める内容だった
申請書では、「怒鳴られた」「責められた」といった表現だけでなく、発言の具体的内容、場面、時間、回数、周囲の状況を整理することが重要です。
② 一度の発言よりも「継続性」が重要になることがある
パワハラ型の労災申請では、単発の出来事だけで評価されると、心理的負荷が十分に反映されないことがあります。
実際には、一つひとつの発言は短くても、それが毎日のように続いたり、復職後から継続して否定的な対応を受けたりすることで、精神的に追い込まれていくことがあります。
精神障害の労災認定では、関連して生じた出来事については、全体として心理的負荷を評価すべき場面があります。
そのため、申請時には、次のような流れを整理しておくことが大切です。
- 最初に違和感を覚えた出来事
- その後、同じ上司からどのような言動が続いたか
- 勤務内容や職場内での扱いがどう変化したか
- どの時点で症状が悪化したか
- 受診や休職につながった直接のきっかけ
「この日だけが問題だった」のではなく、「この日までに何が積み重なっていたのか」を示すことが、パワハラ型の労災申請では非常に重要です。
③ 第三者証拠がないと、本人の主張だけに見られやすい
パワハラの難しさは、密室や少人数の場面で行われることが多い点にあります。
本人にとっては明らかに苦しい出来事であっても、客観的な裏付けが少ない場合、原処分理由書では「本人の申述によるもの」として扱われることがあります。
そのため、可能な範囲で、次のような資料を整理しておくことが大切です。
- 当時のメモや日記
- LINEやメール、チャットのやり取り
- 家族や友人に相談した記録
- 医療機関で話した内容
- 会社に提出した相談文書や報告書
- 同僚が見聞きしていた事情
証拠というと、録音や正式な文書だけを想像される方もいます。
しかし、精神障害の労災申請では、当時のメモ、LINE、家族への相談、受診時の説明なども、出来事の経過を補強する資料になり得ます。
④ LINEやメモは「当時の感情」よりも「時系列」を示すために使う
パワハラを受けた直後のLINEやメモには、強い感情が書かれていることがあります。
もちろん、当時どれほど苦しかったかを示す意味はあります。
ただ、労災申請でより重要なのは、その資料によって「いつ、何が起き、その後どうなったか」を示せるかどうかです。
たとえば、LINEやメモでは次のような点を整理します。
- 発言があった日付
- 誰から言われたのか
- どのような言葉だったのか
- その後、眠れない・食べられないなどの症状が出たか
- 受診や休職につながっているか
つまり、LINEやメモは「つらかったことを訴える資料」だけではなく、出来事と症状の流れを示す資料として整理することが大切です。
⑤ 面談の内容だけでなく「場面の圧迫性」も重要
パワハラ型の相談では、面談の内容そのものだけでなく、面談がどのような状況で行われたかが重要になることがあります。
たとえば、同じ発言であっても、次のような状況では心理的負荷の程度が変わります。
- 個室に呼び出された
- 複数名の上司が同席していた
- 本人だけが一方的に話を聞かされた
- 退職や異動、勤務変更の話が突然出された
- 反論や説明をする余地がなかった
原処分理由書では、発言内容は検討されていても、面談の場面設定や心理的圧迫性への言及が見られないことがあります。
そのため、申請書では「何を言われたか」だけでなく、「どのような場で、誰から、どのような形で言われたのか」まで整理する必要があります。
⑥ 「退職勧奨」や「勤務変更」はパワハラ評価と重なることがある
パワハラの相談では、上司の叱責だけでなく、退職勧奨や勤務変更の話が同時に出てくることがあります。
たとえば、
- 「この仕事は無理ではないか」と言われた
- 「パートになるか、辞めるか」と選択を迫られた
- 本人の希望しない部署異動を示された
- 復職直後に勤務内容を大きく変えられた
- 実質的に居場所がないような扱いを受けた
といった事情です。
このような場合、単なる「上司とのトラブル」だけでなく、「退職を強要された」「配置転換があった」「仕事内容・仕事量の大きな変化があった」など、別の心理的負荷項目との関係も検討する必要があります。
労災申請では、出来事を一つの言葉でまとめすぎず、どの認定基準上の出来事に当たり得るのかを丁寧に整理することが重要です。
パワハラ型の労災申請で整理しておきたいこと
パワハラによる精神障害の労災申請では、次の点を整理しておくことが大切です。
- 誰から、どのような言動を受けたのか
- その言動は一度だけか、継続していたのか
- 業務指導の範囲を超える事情があるか
- 人格否定や退職示唆にあたる発言があるか
- 面談の場面に心理的圧迫性があったか
- LINE、メモ、メール、診療記録などの資料があるか
- 発症、受診、休職までの時間的な流れが整理できているか
これらを整理することで、「パワハラを受けた」という訴えを、労災認定の判断枠組みに沿った説明に近づけることができます。
まとめ:パワハラ労災は「出来事の整理」がカギになります
パワハラによって精神障害を発症した場合でも、労災認定では、単に「つらかった」「ひどいことを言われた」という説明だけでは十分ではありません。
重要なのは、上司の言動が業務指導の範囲を超えていたのか、継続性があったのか、客観的資料で裏付けられるのか、発症や受診と時間的につながっているのかを整理することです。
実際の原処分理由書を読むと、パワハラ型の事案では、「業務指導との境界」「継続性」「客観資料」「面談状況」が特に重要なポイントになると感じます。
今回は、原処分理由書から学ぶシリーズの第2弾として、パワハラ評価のポイントを整理しました。今後も、退職勧奨、会社提出資料、一連評価、長時間労働などについて、実務上の視点から順に解説していきます。
こもれび社労士事務所では、パワハラや退職勧奨、復職後のトラブルなどによる精神障害の労災申請について、出来事の整理、証拠の確認、申請書類の作成までサポートしています。
会社に相談する前の段階でも、まだ労災申請するか迷っている段階でも大丈夫です。
まずは、今起きていることを短文や箇条書きで送っていただければ、一緒に整理していきます。
パワハラによる労災申請でお悩みの方へ
上司からの叱責、人格否定、退職勧奨、復職後の排除、勤務変更などで体調を崩した場合、労災申請の対象になる可能性があります。
「これはパワハラなのか」「労災になるのか分からない」という段階でも構いません。まずは現在の状況を一緒に整理していきましょう。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


