【原処分理由書から学ぶ⑤】精神障害の労災認定で重要な「一連評価」とは?出来事を分けてはいけない理由

精神障害の労災認定における一連評価と時系列整理をイメージした水彩イラスト

この記事では、「原処分理由書から学ぶ」シリーズの第5弾として、実際の原処分理由書や審査請求実務から見えてきた、精神障害の労災認定における「一連評価」の考え方を、個人情報等に配慮したうえで社労士の視点から解説します。

「パワハラの話」「退職勧奨の話」「長時間労働の話」は、別々に整理した方がよいのでしょうか。

精神障害の労災相談では、出来事が複数ある場合、相談者の方がそれぞれを別の問題として話されることが少なくありません。

しかし、精神障害の労災認定では、関連して生じた出来事については、全体として評価するという重要な考え方があります。

私はご相談をいただくと、「パワハラ」「退職勧奨」「長時間労働」などに分けて整理することは、ほとんどありません。まず最初に行うのは、発病前おおむね6か月間の出来事を一つの時系列に並べることです。

この記事では、精神障害の労災認定で見落とされやすい「一連評価」とは何か、そしてなぜこの考え方が申立書や証拠整理で重要になるのかを解説します。

一連評価とは何か

精神障害の労災認定では、出来事を一つずつ切り離して評価するのではなく、関連して生じた出来事を全体として評価することがあります。

これは、出来事が時間的にも内容的にもつながっている場合、個別に見るよりも、全体の流れとして見た方が実際の心理的負荷に近いからです。

たとえば、一つひとつの出来事だけを見ると「中」や「弱」と見える場合でも、継続的な経過として見ると、心理的負荷の評価が変わることがあります。

実際の原処分理由書を読んでいると、一つひとつの出来事ごとに整理されている一方で、審査請求では、それらを一連の流れとして再構成することが重要になる場面があります。

なぜ相談者は出来事を分けて話してしまうのか

ご相談では、出来事を「これはパワハラ」「これは退職勧奨」「これは勤務変更」「これは長時間労働」というように、分けて話されることがよくあります。

それ自体は自然なことです。実際に起きた場面も、相談した窓口も、その時の受け止め方も、それぞれ別に感じられるからです。

たとえば、

  • 4月 上司に強く叱責された
  • 5月 配置転換を打診された
  • 6月 夜勤や一人勤務が増えた
  • 7月 退職を示唆する発言を受けた

という流れがあったとしても、相談者の方は「これは別々の話ですよね」と考えがちです。

実際には、「どこから話せばいいのか分からない」と悩まれる方も少なくありません。

しかし、実務では、こうした出来事が互いに関連しながら精神的負担を強めていった可能性を検討します。

認定基準では「関連して生じた出来事は全体として評価」する

精神障害の労災認定基準では、関連して生じた出来事については、その全体を一つの出来事として評価する考え方が示されています。

つまり、一つひとつの出来事を別々に評価するのではなく、「最初に何が起こり、その後どのような出来事が続いたのか」という一連の流れとして心理的負荷を考えるということです。

原則として、最初の出来事を具体的出来事として位置づけ、その後に続いた出来事は、出来事後の状況も含めて全体として見ていきます。

つまり、認定基準の考え方は、「パワハラか、退職勧奨か、勤務変更か」と一つだけを選ぶものではありません。

むしろ、複数の出来事がどのようにつながり、どのような流れで発症や受診、休職に至ったのかを整理することが重要になります。

パワハラ・退職勧奨・勤務変更・長時間労働は別ではない

精神障害の労災申請では、パワハラ、退職勧奨、勤務変更、長時間労働が重なっていることは珍しくありません。

実際には、

  • 長時間労働が続く中で上司から強く叱責された
  • 体調が悪化した後に勤務変更や配置転換を求められた
  • 復職後に面談が繰り返され、退職を示唆された
  • 一人勤務や夜勤の負担の中で孤立感が強まった

というように、一つの出来事が次の出来事につながっていくことがあります。

そのため、申立書でも、「パワハラの章」「退職勧奨の章」と完全に分けてしまうより、全体の流れとして再構成した方が、認定基準の考え方に沿った整理になります。

時系列を書く理由

一連評価を意識すると、時系列の重要性がよく分かります。

時系列は、単なる出来事の一覧ではありません。

「いつ、何が起き、その後どうなったのか」をつなげていくことで、関連する出来事の流れを見える形にするものです。

たとえば、時系列では次のような点を整理します。

  • 最初にどの出来事があったのか
  • その後にどんな言動や勤務変更が続いたのか
  • いつから症状が出始めたのか
  • いつ受診し、いつ休職に至ったのか
  • その間に会社がどのような対応をしていたのか

この流れが整理されることで、個別の出来事では見えにくかった心理的負荷の積み重なりが見えてきます。

一連評価を意識すると申立書の書き方が変わる

一連評価を理解すると、申立書の書き方も変わります。

たとえば、「つらかった出来事を思い出した順に書く」「テーマごとに別々に書く」という書き方だけでは、出来事のつながりが伝わりにくくなることがあります。

それよりも、

  • 最初の出来事を起点にする
  • その後の関連する出来事を時系列で並べる
  • 症状の悪化や受診との関係を入れる
  • 会社資料やLINE、医療資料と整合する形で書く

という整理の方が、認定基準の考え方に沿った申立書になります。

つまり、一連評価は、単なる理論ではなく、申立書作成そのものに影響する実務上の考え方です。

私が実務で最初に整理すること

労災申請や審査請求で私が最初に行うのは、出来事を種類ごとに分けることではありません。

まず、発病前おおむね6か月間を一つの時間軸として見て、その中で何が起きていたのかを並べます。

実務では、次のようなものを一つの時系列に載せて整理します。

  • 上司の発言や面談
  • 勤務変更や配置転換
  • 長時間労働や夜勤、一人勤務
  • LINEやメールのやり取り
  • 症状の出現
  • 精神科受診
  • 欠勤や休職

こうして見ると、相談の段階では別々に見えていた出来事が、実際には一連の流れとしてつながっていることがよくあります。

そして、そのつながりが見えて初めて、どの資料を証拠として使うべきか、どの出来事をどう位置づけるべきかが整理しやすくなります。

まとめ:一連評価を理解すると、労災申請の整理の仕方が変わります

精神障害の労災認定では、出来事を一つずつ切り離して考えるのではなく、関連して生じた出来事を全体として評価するという考え方があります。

だからこそ、パワハラ、退職勧奨、勤務変更、長時間労働などを別々の問題として扱うのではなく、一つの時系列の中で整理することが重要です。

実際の原処分理由書を読み込み、審査請求で追加意見書を作成する中で強く感じるのは、この「一連評価」を意識するだけで、申立書の書き方も、証拠の集め方も、時系列の作り方も大きく変わるということです。

今回は、原処分理由書から学ぶシリーズの第5弾として、「一連評価」の考え方を整理しました。パワハラについては第2弾、長時間労働については第3弾、会社資料の読み方については第4弾で詳しく解説しています。

こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請について、出来事の整理、時系列の作成、証拠の確認、申請書類の作成までサポートしています。

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まずは、起きたことを短文や箇条書きで送っていただければ、一緒に時系列を整理していきます。

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